膝窩筋腱炎
はじめに:膝の裏や外側の違和感、我慢していませんか?
「走っていると膝の裏が痛む」 「下り坂を走ると膝の外側に鋭い痛みが走る」
その症状、「膝窩筋腱炎」 の可能性があります。
第二のランナー膝とも呼ばれますが、実はこの「膝窩筋」のトラブルは見逃されやすく、適切な診断と治療が必要です。
今回はこの「膝窩筋腱炎」について解説します。
1. 膝窩筋(しつかきん)とは?どんな役割?
膝窩筋は、膝の関節の「裏側」の深層に位置する、小さく平らな三角形の筋肉です。 「膝の過伸展を防ぐ」 という非常に重要な役割を担っています。
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膝のロック解除: 私たちが立った状態で膝を伸ばしきっている時、膝は安定のために「ロック」されています。歩き出しや屈曲動作に入る際、下腿(すねの骨)を内側にひねり、このロックを外すのが膝窩筋の仕事です。
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下り坂でのブレーキ: 膝が前に出過ぎないように制動する役割もあります。
2. 膝窩筋腱炎の主な症状チェックリスト
もし以下の項目に当てはまる場合、膝窩筋腱炎の疑いがあります。
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膝の裏側(特に外側寄り) に痛みがある
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平地よりも 下り坂 を走るときに痛みが強くなる
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膝を深く曲げた状態から立ち上がるときに痛む
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膝を 完全に伸ばしきる(伸展) と裏側が痛い
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走っていない時は痛みが引くが、走り出すと再発する
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以前、捻挫などの怪我をしたことがある
3. なぜ起こる?ランナーに多い原因
膝窩筋腱炎は、オーバーユース(使いすぎ)によるスポーツ障害の一つですが、特に以下のような状況で発症リスクが高まります。
① 下り坂の走行
下り坂では、体が加速しすぎないように膝窩筋が強く働いてブレーキをかけます。この反復動作が腱に過度な負荷をかけ、微細な損傷や炎症を引き起こします。
② 路面の傾斜(バンク)
道路の端(カマボコ状に傾斜した部分)やトラックを一方向に走り続けると、片側の脚(特に外側の脚)の膝にねじれのストレスがかかり続け、膝窩筋を痛めやすくなります。
③ 過回内(オーバープロネーション)
足首が内側に倒れ込むような着地(過回内)をするランナーは、連動して下腿が過剰に内旋するため、膝窩筋が常に引っ張られる状態になり、炎症が起きやすくなります。
4. 診断:見逃されやすいからこそ「画像診断」が重要
膝窩筋腱炎は、一般的なレントゲン検査では骨に異常がないため、「ただの使いすぎですね」と見過ごされてしまうことがあります。 当院では、以下の検査を用いて正確な診断を行います。
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徒手検査: Garrick testなど、特定の体勢で膝窩筋に負荷をかけ、痛みが誘発されるかを確認します。
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超音波検査(エコー): 腱の腫れや周囲の水腫(水たまり)、炎症による血流の増加をリアルタイムで確認します。動的な評価が可能です。
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MRI検査: 膝窩筋腱は奥深くにあるため、詳細な評価にはMRIが極めて有効です。下図のような腱の信号変化(炎症のサイン)や、半月板・靭帯など他の組織に損傷がないかを鑑別します。
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図1:左は冠状断像(正面から見た画像)、右は矢状断像(横から見た画像)、膝窩筋腱が高信号を示し、
炎症があることを示しています。(引用元:Jadhav SP et al. Comprehensive review of the anatomy, function, and imaging of the popliteus and associated pathologic conditions. Radiographics. 2014;34(2):496-513.)
5. 治療
基本的には手術を必要とせず、保存療法(手術以外の治療)で改善を目指します。
保存療法(安静・薬物療法):
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安静(Rest): 急性期はランニング量を減らす、または休止することが最優先です。
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アイシング: 運動後の熱感がある場合は冷却します。
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抗炎症薬: 湿布や内服薬で炎症を抑えます。痛みが強い場合、超音波ガイド下での注射(ハイドロリリース等)を行うこともあります。
リハビリテーション:
痛みが引いても、フォームや筋バランスが改善されなければ再発します。
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ストレッチ: 硬くなった膝窩筋や、関連するハムストリングス、下腿三頭筋の柔軟性を高めます。
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筋力強化: 臀部(お尻)や大腿四頭筋を鍛え、膝への負担を分散させます。
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フォーム改善: オーバープロネーションの矯正や、インソールの作成を検討します。
運動器カテーテル治療・動注治療(自費診療)
アキレス腱炎などの腱炎付着部炎では、慢性炎症に伴う病的新生血管(モヤモヤ血管)ができている事が多いです。運動器カテーテル治療はこの異常血管だけにフタ(塞栓)し、炎症を改善し痛みを緩和する方法です。基本的には1回での治療となります。
自己組織注入治療(自費診療)
自己組織注入治療は、患者様の自己組織を疼痛部位に直接注射する治療法です。自己組織(血小板)には主に「血液を固めるはたらき」と「組織の修復を促す成長因子を出すはたらき」があり、後者の能力を使って、自分自身がもともと持っている修復力を引き出すことができる治療法です。
治療は症状などと合わせて適切な治療を選択していきます。
(文責:医師・医学博士 藤原圭史)
