医者でもやらかす「痛み」の話
こんにちは。
先日開催された「西尾マラソン」で、意気揚々とスタートラインに立ったものの、わずか11km地点で右ふくらはぎの悲鳴によりリタイアした藤原です。
あの回収バスの独特な揺れと、窓の外を流れるゴール直後のランナーたちの晴れやかな笑顔…… 対して私はガックリと肩を落として帰路につくあの景色は、おそらく一生忘れません(笑)。
さて、そんな私のキズ(心の?笑)がまだ痛む今だからこそ、今日は「痛みのメカニズム」について、少し真面目に、でも分かりやすく書いてみようと思います。
最近ではありがたいことに「先生がする超音波ガイド下の注射はよく効くと聞いて来ました」という方が当院にたくさんいらっしゃいます。しかし、実は「急性期の方」には原則として注射を打ちません。
その理由は至ってシンプル。 体の中で起きている「細胞たちのドラマ」を紐解きながら解説していきます。
第1章:痛みには「旬」がある 〜急性期と慢性期〜
痛みには、その時期によって暴れている「主役(細胞)」に違いがあります。
1. 急性期(怪我した直後〜数日)
主役:好中球(こうちゅうきゅう) 彼らは「緊急レスキュー隊」です。組織が壊れると真っ先に駆けつけ、壊れた組織を食べたり、悪い菌を殺したりします。仕事が荒っぽいので、現場は腫れ上がり、熱を持ち、激痛が走ります。これが「急性炎症」の正体です。
2. 慢性期(数週間〜数ヶ月以上)
主役:リンパ球、マクロファージ 急性期の騒ぎが収まっても痛みが続く場合、現場には「現場監督」や「設計士」のような細胞が居座ります。彼らは本来、組織を修復する役目ですが、こじれると「変な壁(線維化)」を作ったり、「モヤモヤ血管」と呼ばれる病的新生血管を増やしたりして、ジワジワとした鈍い痛みを作り続けてしまいます。
第2章:なぜ急性期に注射をしないのか?
ここで本題です。なぜ、痛みが強い急性期にこそ注射を打ってはいけないのか。
その答えは、「レスキュー隊(好中球)を追い返すと、工事(修復)が始まらないから」です。
実は、最初に来る「痛み・腫れ(急性炎症)」は、体が治るための必須プロセス(着工式)。壊れた組織をレスキュー隊が片付けて「更地」にしてくれないと、次の大工さん(修復細胞)が新しい筋肉や腱を作ることができません。
この時期に強力なステロイドを打つということは、いわば「火事が起きているのに消防車を追い返す」ようなもの。その結果、以下のようなリスクを招きます。
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組織が脆くなる(修復が中途半端になる)
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再断裂しやすくなる(強度が戻らない)
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感染しやすくなる
まさに、悪いことだらけなのです。
慢性期の痛みには「攻めの治療」を
一方で、慢性期の痛みは「工事がこじれている状態」ですので、治療の考え方が変わります。 当院で行っている動注治療や運動器カテーテル治療は、この慢性期に増えてしまった「モヤモヤ血管」に対してフタ(塞栓)をすることで、組織を正常な状態に戻してあげる治療法です。
「いつ、どのタイミングで、どの治療をすべきか」 これを見極めるのが、我々専門医の仕事でもあります。
いかがでしたでしょうか? もし自分の痛みが「今どの時期なのか」わからなければ、外来時にいつでも聞いてくださいね。
それではまた!
